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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)1421号 判決 1996年3月12日

原告

長谷麻樹子

被告

河原照佳

主文

一  原告と被告との間において、別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく原告の被告に対する債務は金二〇万三五一〇円を超えて存在しないことを確認する。

二  原告の被告に対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その四を原告の、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告は被告との間で別紙交通事故目録記載の交通事故に基づき原告が被告に対して負担する債務は金一二万二一〇六円を超えて存在しないことを確認する。

第二事案の概要

本件は、交通事故による自動車の評価損について争われた事案である。

一  争いのない事実

交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一)  発生日時 平成六年六月一二日午前八時一五分頃

(二)  発生場所 大阪市淀川区新北野一二丁目四番地先路上

(三)  関係車両 原告運転の普通乗用自動車(大阪七九つ七五〇七、以下「原告車」という。)

被告運転の普通乗用自動車(なにわ三五ろ七五四八、以下「被告車」という。)

(四)  事故態様 原告車がUターンしようとして、直進する被告車と衝突した。

二  争点

評価損について

1  原告の主張

評価損としては、(一)修理が一応終了したけれども自動車が事故に遭う前に持つていた機能を含めた使用価値が減殺される場合、(二)自動車が持つている機能は回復したが外板や塗装面に補修跡が残る場合、(三)事故車ということで市場で嫌われるために交換価値が低下する場合の三つがある。

本件では(二)(三)の意味の評価損ではなく、(一)の評価損に該当するか否かが問題となる。

(一)の評価損が発生するか否かは自動車の構造と密接に関連する。

自動車の構造には大きく分けると<1>ボデーとフレームが独立したフレーム式ボデー(分離式構造)と、フレームがなく、フレームに替わるメンバー類がボデーと一体になつたモノコツクボデー(単体構造)の二つに分かれる。

フレーム式ボデーは、衝突による路面からの衝撃や衝突時の衝撃を頑丈なフレームにより吸収するように設計されているのに対して、モノコツクボデーは衝突による衝撃をボデー全体で受けて吸収させるような設計をしている。

本件の被告車は、モノコツクボデーである。

モノコツクボデーでは、各種部品を溶接等によつて組み付けて集合体を作り全体として必要な強度を維持しているのであるから、溶接での組み付け部材(以下「構造部材」という。)の強度負担度が高く、構造部材に対する損傷による変形や、修理の際の溶接による加熱での強度の劣化は将来的な機能の低下や使用年数の減少の原因となる可能性がある。

事故による修理で、溶接加工を伴う構造部材の取り替えがなされた場合には損害の完全な回復が技術的経済的に不可能であり、この回復出来ない分は損害の対象となる。

(一)の意味での評価損の算定方式としては、事故がなければ残存したはずの耐用年数の間に、事故により修理した部位の構造部材を再び取り替える必要が生じるおそれがあることから、当該事故の構造部材の取り替えに要した費用を上限として、当該自動車の耐用年数やそれまでの使用状況や今後の使用予定などを勘案して段階的に減価する方法で評価すべきである。

被告車の評価損については、被告車の構造部材の修理に要するのは二〇万三五一〇円であり、被告車の初度登録は平成四年三月であり、本件事故まで二年を経過していること、被告車の法定耐用年数は六年であることから初度登録から一年を経過する毎に評価損も二〇パーセントづつ逓減し、被告車は走行キロ数が三万二八四五キロメートルであるので乗用自動車としては通常の使用方法の範囲内であるので、被告車の評価損も四〇パーセント減少し、一二万二一〇六円である。

2  被告の主張

原告は評価損も毎年二〇パーセントづつ減少すると主張するが、右は認め難く、減少しないとして算定すべきである。その他の点については争はない。

第三争点に対する判断

証拠(甲一乃至六、乙一、二、証人塩谷正治)によれば、以下の事実が認められる。

一  被告車の評価損については、日本自動車査定協会での事故減価額証明書(乙一、以下「減価証明書」という。)があり、三二万四〇〇〇円である。

被告車の修理費については、日産プリンス大阪販売株式会社の修理見積書(甲一、甲三、以下「見積書」という。)では一五六万三七二〇円であるが、減価証明書によれば、復元修理見積額は一二三万八〇六〇円である。

減価証明書の査定担当者である証人塩谷正治(以下「塩谷」という。)によれば、減価証明書の修理見積額は、見積書に基づいてその見積が相当か否かを日本自動車査定協会(以下「査定協会」という。)が判断したものであるとのことである。

査定協会での評価損の査定方法は、塩谷の供述及び同人の調査嘱託に対する回答によれば、いわゆるイエローブツク等に記載のある査定基準価格二六二万円に減価証明書の修理見積額一二三万八〇六〇円を乗じて、ルートを開いたうえ、定数六・六七で除して求めた数値に、中古車自動車査定基準の事故減価ランクCの数値である一・二を乗じて算定するもので三二万四〇〇〇円の評価損となる。

他方、原告主張の評価損は、モノコツクボデーでは、各種部品を溶接等によつて組み付けて集合体を作り全体として必要な強度を維持しているのであるから、溶接での組み付け部材(以下「構造部材」という。)の強度負担度が高く、構造部材に対する損傷による変形や、修理の際の溶接による加熱での強度の劣化は将来的な機能の低下や使用年数の減少の原因となる可能性がある、として構造部材の損害を算定する。

被告車の修理に必要な構造部材は、見積書(甲三)に赤のラインマークを付けた部分の価格一五万一二一〇円と、右構造部材の修理をするのに必要な部材の脱着部分については、見積書にブルーのラインマークを付けた部分であり、価格は四万四三〇〇円であり、右にRFピラー修理費用八〇〇〇円を加えると合計二〇万三五一〇円である。

二  減価証明書の算定方法は、一般的になされているものであり、右の評価損の算定方法は合理性があるが、計算の前提となる被告車の修理価格についての査定金額の根拠が明らかにされてないので、減価証明書の金額を直ちに評価損として採用することはできない。

他方、原告の主張する評価損の算定方法は、自動車がモノコツクボデーの構造を有していることに着目したものであり、右計算方法にも合理性があるので同方法を採用する。

右計算方法を採用した場合、被告車は本件事故まで初度登録から二年を経過しており、被告車の法定耐用年数が六年であることから、評価損も四〇パーセント減額すべきである、と原告は主張する。

しかしながら、修理費が自動車の価格を上回る場合は別として、修理費が自動車の価格以下である場合に、修理がなされることにより、当該車両の法定耐用年数が本来の法定耐用年数を超えた状態になると直に言いえるものでもなく、各修理箇所を個別に検討しなければならないこと、また、法定耐用年数と自動車の価格が直ちに結びつくものではないことから、原告の主張は理由がない。

よつて、被告車の評価損は前記認定した二〇万三五一〇円が相当である。

第四結論

原告と被告との間で、別紙交通事故目録記載の交通事故に基づき、原告が被告に対して負担する債務は金二〇万三五一〇円を超えて存在しないことを確認する限度で理由があるので、主文のとおり判決する。

(裁判官 島川勝)

別紙 交通事故目録

(一) 発生日時 平成六年六月一二日午前八時一五分頃

(二) 発生場所 大阪市淀川区新北野一二丁目四番地先路上

(三) 関係車両 原告運転の普通乗用自動車(大阪七九つ七五〇七)

被告運転の普通乗用自動車(なにわ三五ろ七五四八)「被告車」という。)

(四) 事故態様 原告車がUターンしようとして、直進する被告車と衝突した。

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